肉牛とは、肉生産を目的として改良された牛の総称。
農業の業種では、食肉牛の飼育を指します。
肉牛は、母牛に仔牛を産ませて一定期間育てた後に仔牛を販売する「繁殖経営」と、繁殖農家から購入した仔牛を育成し、食用牛としての価値を高める「肥育経営」に分かれているのが特徴。
2種類の肉牛農家の仕事があってこそ、新鮮でおいしい牛肉が食卓に届くのです。
このページでは「繁殖経営」と「肥育経営」それぞれの肉牛農家の仕事内容や、作業スケジュールを詳しくご紹介します。
どんな人が肉牛農家に向いているのかもあわせてお伝えしますので、興味のある方、やってみたい方は、ぜひ参考にしてくださいね。
肉牛の生産物例 和牛をはじめ4種類に分類
冒頭でお伝えしたように、肉牛は食用牛を飼育すること。
「繁殖経営」と「肥育経営」の農家によって、食卓にのぼる牛肉が生産されます。
食肉用の牛は、大きく分けて以下の4種類です。
➀和牛
日本で昔から飼われていた牛に、外国種をかけ合わせて改良した食用牛。
海外でも人気の高い、ジャパニーズブランド牛としても有名です。
和牛は、さらに以下のように分類されます。
・黒毛和種…日本でもっとも多く飼育されている品種。毛色はやや褐色を帯びた黒で、肉質がとくに優れている人気の食用牛です。
・褐毛(あかげ)和種…主に熊本県と高知県で飼養される品種。毛色は明るい赤褐色で、黒毛に次いで肉質が良好なのも特徴です。
・無角和種…山口県で改良された、角のない牛。肉付きがよく、脂肪が少ないのが特徴です。
・日本短角種…北海道や東北地方で飼育されてる品種。毛色は赤褐色で濃淡があり、肉質は黒毛に劣るものの、牧草主体で育った赤身肉のおいしさが人気の牛です。
②乳用種
酪農農家で飼われていて、「ホルスタイン種」と呼ばれる牛が多いです。
乳生産ができるのは雌だけなので、雄は大半が去勢(きょせい)されて食肉用として肥育されます。
毛色は白と黒のまだらです。
③交雑種
F1(エフワン)と呼ばれる、生産性と肉質の向上を目的に交配された牛です。
代表的な交配は、乳用種の雌と和牛の雄。毛色は一般的に黒色で、体の一部に白斑(はくはん)が現れるケースも多いです。また食肉専用種よりも生育が早く、病気に強いといった特徴があります。
④外国種
北海道などでごく少数飼養されている、スコットランド産の品種。
毛色は黒色で、放牧飼育に適した牛です。
「アバディーンアンガス種」と呼ばれる場合もあります。
肉牛農家の年間スケジュール 牧草や飼料の管理も重要
肉牛農家は動物を相手にする仕事なので、基本的には年中無休。
休日は、スタッフ間で交代しながら取得する場合が多いです。
また肉牛農家は家畜の世話だけでなく、餌となる牧草や飼料の管理まで行います。
肉牛農家のおおまかな年間スケジュールを、確認してみましょう。
また繁殖経営農家の場合は、仔牛の出産も時期を問わず対応します。
春~夏:牧草を自家生産している場合、この時期に収穫作業を行うのが一般的。
収穫した牧草は大きな円柱の形にまとめて「ロール」にしたり、「サイロ」と呼ばれる保管場所に詰めたりして長期保存に備えます。
秋:飼料の自家生産している場合は、米やワラの収穫作業を行います。
肉牛農家の1日の流れ 牛の管理がメイン
年間スケジュールがわかったら、次は肉牛農家の1日の流れを確認していきましょう。
肉牛農家では、飼育する牛の世話が仕事の中心なので、牛の生活リズムに合わせたスケジュールが組まれます。
また繁殖経営と肥育経営の1日の流れはほぼ同じですが、作業内容が少し異なります。
【繁殖経営農家】
08:00~12:00 牛の状態観察、給餌、牛舎管理
12:00~13:00 休憩
13:00〜18:00 牛舎の清掃、堆肥処理、去勢・種付け・離乳、飼料の運搬・牧場整備
21:00~22:00 牛舎点検
※お出産や病気・ケガがあった場合は、時間を問わず対応
【肥育経営農家】
08:00~12:00 牛の状態観察、給餌、牛舎管理
12:00~13:00 休憩
13:00~18:00 給餌(2回目)、牛舎の清掃、堆肥処理、仔牛の区分け・出荷・牧場整備
21:00~22:00 牛舎点検
※病気やケガがあった場合は、時間を問わず対応
繁殖経営、肥育経営ともに、午前中は牛の健康状態のチェックがメインです。
ただ酪農農家のように毎朝の搾乳がない分、比較的朝は遅め。
8時くらいから牛舎に入り、給餌や管理作業を行います。
午後になると、牛舎の清掃や牧場管理といった通常業務のほか、繁殖経営農家は去勢や種付け、肥育経営農家は仔牛の区分けをする場合が多いです。
そして、就寝前に牛や牛舎に異変がないかをチェックして、1日の作業はすべて完了になります。
肉牛農家の仕事内容 牛舎管理と牛の状態をチェック
1日のスケジュールがわかったら、次は繁殖経営と肥育経営、それぞれの主な仕事内容を見ていきましょう。
繁殖経営農家の仕事 母牛と仔牛を常に観察する
母牛の観察 発情サインをしっかりキャッチ
肉牛の生産効率を高く保つためには、母牛の発情サインをしっかりとキャッチする観察眼が重要です。
牛は発情すると鳴き声が高くなり、人や牛に体をすり寄せたり舐めたり、さらに周りをキョロキョロしたりと、落ちつきのない行動をとります。
機会を逃すと次の発情まで約3週間を要すため、サインを逃さないよう日々の状態を正確に記録して、発情期に備えましょう。
種付け 時間との勝負
母牛の発情期間は、約24時間と言われています。
そのため、遅くても発情してから12時間以内には種付け作業が必要です。
また、あえて自然交配させる和牛などを除いて、現在ではほぼ100%人工授精によって種付けが行われています。
出産 夜中にお産が始まるケースも
妊娠した母牛は、出産予定日の1か月ほど前に専用の部屋に移して準備に入ります。
お産は夜間になる場合もありますが、無事に仔牛が生まれる瞬間の喜びは何物にも代えがたいです。
哺育(ほいく) 市場ニーズに合わせて育成
繁殖農家から買った仔牛は、約20か月かけて育成します。
肥育の方法は短期間でたくさんの肉をつける方法と、時間をかけて肉質を高める方法の2種類に大別され、市場のニーズに合わせて選択しますよ。
肥育経営農家の仕事 健康な食用牛を育てる
餌の調整 育成段階や品種で餌を変える
肥育農家では、生育段階や品種に応じて餌の調整を行います。
内臓や骨格を作る初期は、家畜に満腹感を与え便通をよくする粗飼料と、タンパク質が多い濃厚飼料。
脂肪をつけはじめる中期からは大麦を加えたり、脂肪を霜降り状にする後期はさらに大麦の割合を増やしたりといった、細かい調整をします。
繁殖経営・肥育経営共通の仕事 牛の健康状態に気を配る
牛舎の見回り・清掃 牛にストレスを与えない
肉牛農家の1日は、牛の健康状態をチェックするための見回りからはじまります。
とくに仔牛は体が小さく病気になりやすいので、注意深く観察するようにしましょう。
また母牛、仔牛の牛床に敷いてある敷料を入れ替えたり、排泄物を処理したりして、常に牛舎を綺麗な状態に保ちますよ。
給餌 1日2回~4回に分けて与える
肉牛農家では、繁殖経営・肥育経営ともに、1日2回~4回程度に分けて牛に餌を与えます。
餌は主に台車を使って、牛房ごとに給餌していきますよ。
ただ仔牛は、最初のうちは乳のみを与え、生後7日程度から粗飼料や濃厚飼料といった固形飼料に徐々に切り替えていくのが一般的です。
肉牛農家のやりがい・魅力 農業未経験者やアルバイトでも働きやすい
肉牛には、どんなやりがいや魅力があるのでしょうか。
肉牛は動物が相手、という従来の農業とは異なる特徴を持つ業種です。
農家の人たちは肉牛にどんな魅力を感じているのか、見ていきましょう。
労働時間が安定している 未経験者でも働きやすい◎
肉牛農家は朝晩の搾乳がない分、同じく牛を扱う酪農に比べて労働時間が短いです。
もちろんお産やケガなどの緊急時には早朝・夜間の対応も出てきますが、普段は労働時間が安定しているため、農業未経験者やアルバイトの方でも働きやすいのが肉牛農家の魅力と言えるでしょう。
肉牛業界を担う存在に 海外でも人気の和牛の生産に携われる
今や海外人気も高く、ジャパニーズブランドとして定着した和牛。
そんな和牛の生産に携われるのは、肉牛農家として働くうえで大きなやりがいになるでしょう。
また現在肉牛業界では、和牛の遺伝子改良や保護運動が活発。
今後さらにおいしく、人気が出るであろう品種の開発や育成に取り組めるのも魅力です。
牛の成長を間近で感じられる 愛情をかけた分嬉しさは大きい
牛の成長を近くで見られるのは、肉牛農家の一番のやりがいでしょう。
とくに分娩に立ち会った仔牛たちが、日々たくましく育って行く姿を見るのは、親心にも似て嬉しいものです。
愛情をかけた分、出荷されるときは寂しいですが、おいしい牛肉として食卓へ届き、食べた人を幸せな気持ちにしてくれるのも肉牛農家をしていてよかったと思える瞬間ですよ。
肉牛農家はこんな人に向いている 思いやりを持って牛と向き合えれば◎
肉牛は、牛を相手にする仕事。
細かな変化に気づき、状況に対応しなければいけないケースも多いので、自分が肉牛農家に向いているのか、これから紹介する3項目でチェックしましょう。
- ①動物を思いやれる
- ②状況に応じた対応ができる
- ③細かな変化に気づける
動物を思いやれる 牛に寄り添える人は◎
動物を思いやる気持ちがある人は、肉牛農家に向いています。
「元気がないけど、大丈夫かな…」
「苦しそうだから助けてあげたい」
こんな風に、親身になって牛に寄り添う心が大切です。
自分の子どものように可愛がったり、世話をしてあげたりできる人は、肉牛農家で活躍できますよ。
状況に応じた対応ができる 肉牛農家はイレギュラーが日常茶飯事
動物を相手にする肉牛は、想定外の状況が起こる場合も少なくありません。
たとえば、急に牛の体調が悪くなったり、思いがけないタイミングでお産がはじまったり…。
そんなイレギュラーが起きたときこそ、応急処置を施したり、素早くお産の準備を整えたりといった状況に応じた行動が求められます。
あらかじめ決まっている対応しかできない、急な出来事に戸惑ってしまう、こんな人に肉牛農家は務まらないでしょう。
細かな変化に気づける 牛の出すサインを見逃さない
物事の細かな変化に気づける人も、肉牛農家では重宝されます。
肉牛農家のお仕事では、牛の状態に毎日気を配り、発情や病気などのサインにすぐ気がつける観察眼が必要です。
なので、日々の暮らしの中でさまざまな物事の変化を敏感に感じとれる人こそ、肉牛農家に最適と言えます。
牛の変化を察し、さらに行動に移せる責任感の強い人はすぐに活躍できるでしょう。
肉牛のQ&A 専業主婦が活躍中!
Q.肉牛農家でどんなキャリアが積めますか
A.以下が一般的なキャリア構成です。
STEP1:飼育スタッフ…牛舎の清掃や給餌、さらには出産の準備まで、肉牛の仕事に必要な知識と技術が身につきます。
STEP2:現場リーダー…飼育している牛だけでなく、スタッフの管理も行います。
また繁殖数や出荷状況など、全体を把握したうえで現場の判断を下せる能力が身に付きますよ。
STEP3:責任者・独立…酪農に関わるすべての業務が身につきます。
また廃業した牧場施設を譲り受けたり、経営を継承したりして独立するケースも多いです。
Q.長期休暇は取れますか
A.取れます。
365日牛の世話をする肉牛農家ですが、交代制にしたり農業派遣者を雇ったりして長期の休暇期間を設ける農家も少なくありません。
Q.女性でも働ける仕事でしょうか
A.可能です。
肉牛農家は他の業種に比べ休憩が多く、女性でもムリなく働ける環境が整っています。
また同じく牛を扱う酪農農家と違って早朝からの作業も少ないため、専業主婦のアルバイトとしても人気です。
Q.未経験でも働けますか
A.働けます。
肉牛に限らず、農業業界では後継者を募集している農家が多いです。
やる気さえあれば未経験でも問題ないのはもちろん、歓迎される場合もあるほどですよ。
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