ハウスや温室などの施設を利用して、野菜や果物を育てる施設栽培。

気温や光量、土壌といった農作物の栽培に欠かせない要素を人為的に管理できるので、季節や天候に左右されにくく、1年を通して安定した生産量を確保できます。

施設を使用しない露地栽培に比べ費用はかかりますが、その分少ない労働力で高品質な作物を栽培できるのが特徴のひとつ。

また、旬に関係なく通年で作物が作れるため、高収入を得られる業種としても人気です。

このページでは施設栽培で生産できる作物や、仕事内容を詳しくご紹介します。

どんな人が施設栽培に向いているのかもあわせてお伝えしますので、興味のある方、やってみたい方は、ぜひ参考にしてくださいね。


施設栽培の生産物例 露地栽培では生産が難しい品種を育てられる

施設栽培の生産物例 露地栽培では生産が難しい品種を育てられる

冒頭でお伝えしたように、施設栽培はハウスや温室などを利用して野菜や果物を育てること。

天候や病害虫の発生といった、自然環境の影響を最小限に抑えられるため、時期を問わずさまざまな品種が栽培できます。

そんな施設栽培で人気の生産物は、果物ではイチゴやスイカ
野菜では小松菜やネギ、ニラやナス、さらにトマトなどが挙げられます。

露地栽培では生産が難しい品種を安定して育てられるのが、施設栽培のメリットです。

施設栽培の年間スケジュール 収穫までの期間が短い

施設栽培の年間スケジュール 収穫までの期間が短い

さまざまな品種や作業工程のある、施設栽培。

ここでは施設栽培でよく生産されるイチゴとナスを例に、年間の作業スケジュールをご紹介します。

【イチゴ】

7月 土づくり:堆肥(たいひ)や苦土石灰(くどせっかい)をまいて、イチゴ栽培に適した排水性・通気性・保水性のある土壌を作ります。

8月 植え付け:潅水(かんすい)を行い、水分を含んだ土壌にします。そこへ苗を植えつけますが、その際ツルのある方を内側、ない方を通路側に向けるのがポイント。
イチゴが通路側に実り、収穫しやすくなります。
また苗間は、30~40cm間隔で均等になるように植えつけましょう。

9~11月 育成:土が乾いたら「水やり」、定植して根が張り出す10月頃に「追肥」、さらに余分なツルや小さすぎる実を取り除く「摘果」をするなど、健康なイチゴを育てるための工程を行います。

12~2月 収穫:イチゴの実にかぶさっていたヘタが反り返り、赤く熟したら収穫適期です。
イチゴが潰れないよう、ひとつひとつ丁寧に収穫します。
6月の高温期は実の着色が早く進むので、とり遅れないように注意しましょう。

【ナス】

3~4月 育苗:本葉が5~6枚になるまで、トレイで苗を育てます。

5月 植え付け:本葉が生えそろったら、施設内の土壌に植えつけます。
株間は、60cm程度にするのが一般的です。
植えつけ後は根まで水分がいきわたるよう、たっぷりと水やりをしましょう。

5~6月 マルチング:土地の乾燥や、泥はねなどによる病気への感染を防ぐため、株元に稲わらや刈草を敷いて、その上からマルチシートをかぶせます。
マルチシートは畝の肩部分まで覆うように張ると、より効果的です。

6~7月 整枝・支柱立て:苗に花が咲いたら、株を充実させるために花の真横にある枝2本を残し、それより下の枝をすべて切り取ります。
またこの時期には大きくなった枝や、伸びたツルを支えるための「支柱立て」が必要です。
支柱は苗の真ん中に1本、両脇に2本をクロスさせるように立て、交わる部分をビニール紐などでしっかりと固定します。
株の数が多い場合は、畝を囲むよう四隅に支柱を立て、そこから苗の真ん中にさした支柱に向けて、マイカ線のような強固な紐で固定しましょう。

8~10月 収穫:ナスの実が12~15cmになったら、収穫の合図です。
ヘタの上部を、ハサミで切って収穫します。
収穫が遅れると皮が固くなり、食味が悪くなってしまうため、とり遅れがないよう注意しましょう。

施設栽培の1日の流れ 収穫時期は早朝から作業

施設栽培の1日の流れ 収穫時期は早朝から作業

年間のおおまかなスケジュールがわかったら、次は施設栽培農家の1日の流れを確認していきましょう。

施設栽培農家では、収穫・出荷がある時期とない時期でスケジュールが大きく異なります

それぞれを、詳しく見ていきましょう。

【収穫・出荷がない時期】

08:00〜09:00 起床・出勤
09:00〜12:00 農作業
12:00〜13:00 休憩
13:00〜17:00 農作業
17:00〜18:00 記録、退勤

【収穫・出荷がある時期】

04:30~05:30 起床・出勤
05:30~07:30 収穫
07:30~10:30 選別・箱詰め
10:30~12:00 出荷
12:00~13:00 休憩
13:00~16:00 農作業
16:00~17:00 記録、売上管理、退勤


施設栽培農家にとっての繁忙期は、収穫・出荷がある時期です。

気温や光量を管理できるため、1日中農作物の鮮度を保てる施設栽培ですが、店頭に並ぶ時間帯を見越して、露地栽培と同じく早朝に収穫します。

枝や葉から切り離した作物は、その瞬間から鮮度が落ちはじめるため、前日の夕方や夜の収穫は適さないんですね。

収穫が終われば、野菜や果物が販売できる状態にあるかを見極める「選別」を行います。
その後、虫食いや汚れ、変形のない収穫物だけを箱詰めして出荷しますよ。

このように収穫・出荷がある時期は、早朝から作業がはじまり、午後からは通常のルーティンで動く農家が多いです。

施設栽培の仕事内容 ハウス内の管理がメイン

施設栽培の仕事内容 ハウス内の管理がメイン

1日のスケジュールがわかったら、次は施設栽培の仕事内容を詳しく見ていきましょう。

圃場(ほじょう)整備 連作障害を防ぐ

施設栽培では、排水対策・土づくり・害虫対策といった圃場整備が欠かせません。

気候変化や自然災害に強い施設栽培ですが、同じ場所で連続して栽培を行う場合に見られる「連作障害」に対してはケアが必要です。

連作障害とは、土壌のバランスが崩れることで引き起こされる作物の育成不良。

土壌を耕したり消毒したりして、連作障害を防ぎつつ、次の栽培に向けた圃場を作ります。

定植 丈夫な苗から栽培をスタート

施設栽培では、ある程度育った苗から栽培をスタートさせるのが一般的です。

そのためプランターやトレイに入った苗を圃場に植えかえる、「定植」と呼ばれる作業が必要になります。

夏場の定植は、涼しい早朝か夕方以降に行われる場合が多いです。

光量・気温の管理 時間帯によって変更が必要

ハウスや温室を使う施設栽培では、天窓やカーテンの開閉、ヒートポンプ暖房装置を利用して、農作物に最適な光量・温度を管理します。

時間帯や品種によって適性数値が異なるため、常に施設内に気を配り、作物が育ちやすい環境を保つ必要があるんですよ。

潅水(かんすい) 乾燥から農作物を守る

乾燥しやすい環境になりがちな施設栽培では、土や根に水分を与える「潅水」も重要な仕事のひとつ。
日常的に土壌の状態をチェックして、作物に十分な水分がいきわたるよう心がけます

H3 樹体管理 養分の偏りを防ぐ

養分の奪い合いを防ぎ、風通しをよくして作物の育成を助ける樹体管理

余分な葉や芽を取り除く「芽かき」や、実や花を大きくするために不要な茎を摘み取る「摘芯」など、農作物の状態を常に観察しながら適切な処置をほどこします

施設栽培のやりがい・魅力 新時代の農業を先取りできる

施設栽培のやりがい・魅力 新時代の農業を先取りできる

施設栽培には、どんなやりがいや魅力があるのでしょうか。

施設栽培は、従来の農業とは異なる特徴を持つ業種です。

農家の人たちは施設栽培にどんな魅力を感じているのか、見ていきましょう。

農業業界をリード!最先端の農業技術に触れられる

品種ごとの適した温度や湿度・育成期間、さらにはハウスの構造など、農産物の生産を通じて蓄積されたデータを基に、IT化が進む施設栽培

最近では異業種から参入する企業も増えていて、さまざまな分野の技術を用いた新しい栽培方法が生まれています。

作業効率の最適化、これまでになかったビジネスモデルの構築など、最先端の農業技術に触れられるのは施設栽培ならではの魅力です。

農作業だけなんてもう古い!6次産業化が進んでいる

施設栽培は通年で安定した生産が可能なため、栽培・加工・販売まで一貫して行う「6次産業化」の取り組みが進んでいます。

従来の農作業だけの農業から、加工品の企画や販売といったさまざまな仕事を体験できるようになっているんです。

現在では、施設で栽培した野菜や果物を使う「農家レストラン」も増えています。

「農作業以外の仕事もしたい!」
「自分で栽培した作物を使って、たくさんの人に喜んでもらえる食品を作りたい」

こんな方は、施設栽培を通じて大きなやりがいを感じられるでしょう。

高収入が得られる 農業業界NO.1の粗収益

施設栽培は初期費用にコストがかかるものの、その分収益は農業業界でもっとも高額です。

季節や自然災害に左右されない施設栽培は、さまざまな作物を安定して生産できます。

また作物の旬に関係なく栽培できるため、より高値で販売できるメリットもあるんです。

実際に平成30年度の農林水産省の統計では、収益が高いと言われている畑作農家の粗収益1,076万円を上回り、施設栽培農家の粗収益は1,589万円となっています。

施設栽培は、”儲かる農業”でもあるんですよ。

施設栽培はこんな人に向いている 責任感のない人では務まらない

施設栽培はこんな人に向いている 責任感のない人では務まらない

施設栽培は、作物の栽培だけでなく施設の管理も重要な仕事になります。

責任感のない人では務まらない場面も多いので、自分が施設栽培農家に向いているのか、これから紹介する3項目でチェックしましょう。

  • ①手先が器用
  • ②数字を扱うのが得意
  • ③責任感が強い

手先が器用 収穫や箱詰めは手作業

手先が器用な人は、施設栽培に向いています。

農業と器用さは、一見関係のないポイントに思われがちですが…。
露地栽培に比べ作物が小さく、手作業での収穫がメインになる施設栽培は、こまやかな作業が多いです。

丹精込めて栽培した作物の収穫・箱詰めでは、潰れたり、傷ついたりしないよう丁寧に、そして器用に進められる人が求められます。

逆に大雑把な性格の人は、施設栽培では活躍できないでしょう。

数字を扱うのが得意 管理にデータは必須

施設栽培では、数字やデータを基に作物の管理を行う場合が多いです。

たとえばイチゴの栽培では、常に室温を17~20℃に保ったり、8か月後の収穫から逆算して作業工程を組んだりする必要があります。

施設栽培は作物の他に、数字やデータとも向き合いながら工程を進めていかなければいけないんです。

数字に対して嫌悪感を抱いてしまう人は、考え直した方がいいかもしれません。

責任感が強い 施設の管理も大事な仕事

施設栽培では、農作業と同じくらい、施設の管理が重要な仕事です。

もし施設の温度や湿度、光量の調整をおろそかにした場合、変化に弱い作物はすぐダメになってしまいます。

気の緩みやいい加減な気持ちが、丹精込めて育ててきた作物と共に働いてきた人たちの想いを台無しにしてしまうんです。

常に施設内に気を配れる責任感は、施設栽培に不可欠な要素と言えます。

施設栽培のQ&A 女性が活躍中って本当?

施設栽培のQ&A 女性が活躍中って本当?

Q.施設栽培でどんなキャリアが積めますか

A.以下が一般的なキャリア構成です。

STEP1:栽培スタッフ…施設で育つ野菜や果物の栽培技術が身につきます。

STEP2:施設長…施設全体の管理を行い、新しい栽培技術が身につきます。

STEP3:責任者・独立…施設栽培に関わるすべての業務が身につきます。
また補助金制度が整い、投資費用を抑えられるようになった現在は、独立して自分の施設農場をはじめる人も多いです。

Q.長期休暇は取れますか

A.取れます。

施設内の土壌で繰り返し作物を栽培する施設栽培農家では、連作障害と呼ばれる作物の育成不良を防ぐため、意図的に畑を休ませる期間を設けます。
栽培する作物によって時期は異なりますが、土壌の整備を行っている間に長期休暇を取る農家が多いです。

Q.女性でも働ける仕事でしょうか

A.できます。

広大な畑を利用する露地栽培と異なり、施設栽培はハウスや温室での作業がメインです。
体力面に不安のある女性の方でも安心して働ける環境ですし、実際に作業している人の半分が女性、なんていう農家もありますよ。

Q.未経験でも働けますか

A.働けます。

施設栽培農家に限らず、農業業界は他業種から転職してきた人が大半を占めているんです。
また先ほど伝えたように、施設栽培は6次産業化が進んでいるため、営業スキルやマーケティングスキル、さらにはプロモーションスキルといった農業以外の知識や能力が重宝されます。
未経験でも問題ないのはもちろん、歓迎される場合もあるほどですよ。

もしいきなり農家に就職するのが不安な方は、数時間単位で働けて施設栽培のノウハウを学べるアルバイトがオススメです。
当サイトジモベジワークスでは、施設栽培の求人もご紹介しているので、ぜひ確認してみてくださいね。