果樹(かじゅ)とは、樹木に成る植物の果実を食用として育てること。
農業の業種では、果物の栽培を指します。
日本では気候や立地に応じて、さまざまな果樹が行われており、東北地方のリンゴや西日本のミカン、甲信地方のブドウなどは世界的にも有名です。
現在では、栽培した果物をジャムやドライフルーツなどに加工して販売する「6次産業」を推進する動きも活発。
果物を生産したあとの業務にも携われるため、異業種から転職した人たちが活躍できる農業としても人気です。
このページでは、果樹で生産できる作物や仕事内容、作業スケジュールを詳しくご紹介します。
どんな人が果樹農家に向いているのかもあわせてお伝えしますので、興味のある方、やってみたい方は、ぜひ参考にしてくださいね。
果樹の生産物例 気候や立地に応じた作物を栽培
冒頭でお伝えしたように、果樹は樹木に実る果物を育てること。
気候や立地に応じた、その土地ならではの品種が栽培されています。
そんな果樹で人気の生産物は、リンゴやミカン、ブドウ、さらにナシやカキです。
果樹の生産物は産地によってブランド化されている場合が多いため、加工や販売したときに高値がつきやすいメリットがあります。
果樹の年間スケジュール 実を守る工程が重要
さまざまな品種や作業工程のある、果樹。
ここでは果樹農家でよく生産されるリンゴとブドウを例に、年間の作業スケジュールをご紹介します。
【リンゴ】
4月 受粉:開花2~3日前から、開花後4~5日の間に受粉させます。
5~6月 摘花・摘果:果実を大きくしたり、来年の花芽の質を上げたりするために、余分な花や実を取り除く「摘花・摘果」を行います。
6~7月 袋掛け:サビを防いで着色をよくしたり、貯蔵力を高めたりするため、リンゴの実に紙袋をかぶせます。除袋は、袋掛けから2か月後が目安です。
7~8月 草生・徒長(とちょう)管理:農園の牧草を刈り取ったり、樹木に新しく伸びた不要な枝(徒長枝)を切ったりして、リンゴの育成に最適な環境を作ります。
8~10月 支柱入れ・反射シート敷き:葉や果実の重さで枝が下がらないように、実に対して支柱を立てます。
また果実の着色向上のため、地上にアルミシートを敷き詰め、反射光をあてる農家が多いです。
10~11月 実まわし・収穫:陽光面だけでなく反対面にもまんべんなく日光を当てるため、実をまわします。
実まわしで成熟度が高まり、実が真っ赤になったら収穫時期です。
リンゴに傷がつかないよう、丁寧に収穫します。
【ブドウ】
11~3月 剪定(せんてい):枝や葉が光合成しやすいよう、余分な枝を切り落とします。
また剪定にあわせ、肥料をまいて養分の補充を行う場合もありますよ。
4月 芽欠き:1つの芽から複数出てしまった芽を取り除き、栄養価の高い房を作ります。
5月 誘引(ゆういん):ツル同士が絡みあわないよう、それぞれのツルを伸ばしたい方向に「誘引」します。栄養が均等に行き届くだけでなく、手入れがしやすくなりますよ。
6~7月 ジベレリン処理・摘粒(てきりゅう):種なしのブドウを生産する場合は「ジベレリン処理」を行い、種が作られないよう改良します。
また実がつきすぎた房では、成長が進んでいない粒を取り除く「摘粒」を行うのが一般的です。
7月 袋掛け:ジベレリン処理と摘粒が終わったら、ブドウの房を紙袋で覆う「袋掛け」を行います。
病気や虫、鳥などから房を守るのが目的です。
8~10月 収穫:お盆前あたりから収穫をはじめます。
ひと房ひと房成熟度が異なるため、毎日ブドウの様子を観察して収穫するのがポイントです。
果樹農家の1日の流れ 翌日の出荷に向けた作業がメイン
年間のおおまかなスケジュールがわかったら、次は果樹農家の1日の流れを確認していきましょう。
果樹農家では、収穫・出荷がある時期とない時期でスケジュールが大きく異なります。
それぞれを、詳しく見ていきましょう。
【収穫・出荷がない時期】
08:00〜09:00 起床・出勤
09:00〜12:00 農作業
12:00〜13:00 休憩
13:00〜17:00 農作業
17:00〜18:00 記録、退勤
【収穫・出荷がある時期】
07:00~08:00 起床・出勤
08:00〜12:00 出荷
12:00~13:00 休憩
13:00~17:00 収穫
17:00~18:00 選果
18:00~19:00 出荷準備
19:00~20:00 記録、売上管理、退勤
果樹農家にとっての繁忙期は、収穫・出荷がある時期です。
露地栽培や施設栽培と異なり、果樹の収穫は午後から行われます。
収穫が終われば、果物が販売できる状態にあるかを見極める「選果」です。
虫食いや汚れ、変形のない収穫物だけを箱詰めして、翌日の出荷に備えます。
このように収穫・出荷がある時期は、通常のルーティンは行わず、翌日の出荷に向けて前日に準備する農家が多いです。
果樹農家の仕事内容 果物栽培ならではの工程多数
1日のスケジュールがわかったら、次は果樹農家の仕事内容を詳しく見ていきましょう。
剪定 余分な枝を切って栄養の偏りを防ぐ
果樹栽培でおいしい果物を育てるためには、樹木を健康に保つ作業が欠かせません。
果樹農家では、実のなる枝に養分を行き渡らせるため、発芽前の冬や春、または夏場に不要な枝を切り落とす「剪定」が必要です。
剪定は収穫量や品質に大きく影響するので、陽当たりや風通りの具合を見ながら慎重に行います。
受粉 結実に不可欠
果樹農家の作業でとくに特徴的なのが、受粉作業です。
果物は受粉によって、実をつけます。
そのため受粉作業をしないと実が育たないだけでなく、そもそも作物ができないんです。
そこで果樹農園では、花粉のある花を直接雌ずいにこすりつけて、人工的に受粉を行います。
チョウやミツバチ、風によって受粉させる方法もありますが、樹木が受粉に困難な場所にあるケースもあって確実性に欠けるため、農家さんの手で人工的に行う場合がほとんどです。
収穫・選別 追熱や予冷で出荷に最高の状態を作る
作物の収穫・選別も、果樹農家の重要な仕事です。
収穫の時期は毎日作物の様子を観察し、もっとも収穫に適した状態の果物からとっていきます。
品種によっては、食べごろになるまで追熟(ついじゅく)や予冷(よれい)といった工程を経て、出荷作業へ移るケースも多いです。
追熟は収穫後に一定期間置いて、果物の甘さを増したり果肉をやわらかくしたりするための処理。
また予冷は、出荷に先立って果物を3~5℃程度に冷却し、鮮度を保つ処理です。
追熟・予冷した作物は、品質や大きさなどに問題がないか、人の手で選別されるほか、最近は選別機などの機械を用いるケースも増えています。
果樹農家のやりがい・魅力 高品質な日本の果物は海外でも人気
果樹には、どんなやりがいや魅力があるのでしょうか。
日本の果物は、販売先が海外にも広がっています。
作物にブランド力があるのは、他の業種にはない特徴です。
農家の人たちは果樹栽培にどんな魅力を感じているのか、見ていきましょう。
海外の市場でも人気 果樹ブランドが確立されている
高品質な日本の果物は、海外の市場でも人気です。
政府が策定した「日本産果実マーク」のついた果物は、日本ブランドのフルーツとして海外でも多くのファンに愛されています。
生産した果物が、日本のみならず海外の人からもおいしく食べてもらえるのは、果樹ならではのやりがいです。
山間部は魅力たっぷり 豊かな自然の中で仕事ができる
樹木を用いて果物を栽培する果樹は、山間部で行われている場合が多いです。
そのため、果樹では豊かな自然の中が職場になります。
物流面をはじめ、他の業種より大変なところもありますが、季節の移り変わりを肌で味わえたり太陽や風を感じたりしながら働けるのは、都会のオフィスでは体験できない魅力です。
6次産業化が盛ん 他業種からの転職者も活躍できる◎
品質が高く、加工品にもしやすい果物。
果樹は農業の中でも、とくに「第6次産業化」が盛んな業種です。
たとえば高級リンゴは、ジャムにして大手百貨店で販売するなど、農作業以外の工程まで一手に担う農家も増えています。
最近では異業種から果樹農家へ転職して、販売やPR面で活躍する人も多いです。
生産するだけでなく、作物のその後まで携わりたい人は、大きなやりがいを感じられるでしょう。
果樹農家はこんな人に向いている 繊細で丁寧な作業が求められる
果樹栽培では、丁寧な仕事を求められる工程が多いです。
仕事を大雑把にやってしまう人には務まらない作業もあるので、自分が果樹栽培農家に向いているのか、これから紹介する3項目でチェックしましょう。
- ①丁寧な仕事ができる
- ②農作業以外の業務にも携わりたい
- ③忍耐強い
丁寧な仕事ができる 繊細さが必要な作業が多い
果樹には受粉や収穫など、丁寧さを求められる作業がたくさんあります。
受粉は筆や綿棒を使って一つひとつの花に確実に花粉をつけなければいけませんし、贈答品としても用いられる果物は傷ひとつで大きく価値が下がってしまうため、繊細で丁寧な仕事が欠かせないんです。
作業の重要性と作物の大切さがわからず、雑に仕事を済ませてしまうような人には、果樹栽培は向かないでしょう。
農作業以外の業務にも携わりたい 向上心がある人は◎
前項でもお伝えしたように、果樹では栽培・加工・販売まで一貫して行う「6次産業化」が進んでいます。
なので果樹農家は、農作業以外にも販売やPRなど、さまざまな業務に携わる機会が多いです。
「販売スキルを活かした仕事がしたい!」
「たくさんの人に喜んでもらえる食品が作りたい」
このような向上心のある人は、果樹農家にピッタリですよ。
忍耐強い 実をつけるまで数年かかる品種も
果樹は他の農業に比べ、収穫までに長い期間を要する品種が多いです。
たとえば”桃栗3年”と言われるように、桃と栗は結実するまでに苗から3年程度かかります。
そんな結実までの間に行うのは、ほとんどが健康な実をつけさせるための樹木の管理。
日々樹木の状態を観察し、成長を促さなければいけません。
結実・収穫の瞬間のために忍耐強く毎日の作業ができる人こそ、果樹農家に最適です。
果樹のQ&A 未経験でも歓迎されるって本当?
Q.果樹農家でどんなキャリアが積めますか
A.以下が一般的なキャリア構成です。
STEP1:栽培スタッフ…その土地に適した果物の栽培技術が身につきます。
STEP2:現場リーダー・農場長…生産の効率化や品質向上を踏まえた農場全体の管理、また観光農園化や加工販売など販路の拡大にも携われます。
STEP3:責任者・独立…果樹農家に関わるすべての業務が身につきます。
また独立して自分の果樹農場をはじめる人も多いです。
Q.長期休暇は取れますか
A.可能です。
果樹農家では、収穫後、翌年花が咲く時期までは樹木の管理を行います。
作物によっても異なりますが、剪定の時期を除いた期間に長期休暇を取る農家が多いです。
Q.女性でも働ける仕事でしょうか
A.できます。
受粉や選実、箱詰めなど、丁寧で繊細な仕事が求められる果樹農家では、たくさんの女性が活躍中です。
また果樹は土を掘ったり運んだりする力仕事が少ないので、体力面に不安のある方でも働きやすいですよ。
Q.未経験でも働けますか
A.働けます。
果樹に限らず、農業業界は後継者を募集している農家が多いです。
また果樹は6次産業化が進んでいるため、他業種で培われた農業以外の知識や能力が重宝されます。
やる気さえあれば未経験でも問題ありませんし、むしろ歓迎される場合もあるほどですよ。
もしいきなり農家に就職するのが不安な方は、数時間単位で働けて果樹のノウハウを学べるアルバイトがオススメです。
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