ハウスやトンネルなどの施設を利用せず、野外で野菜を育てる露地栽培。
施設での栽培より経営コストが安く、年間で数回野菜を収穫できる、新規就農者に人気の業種です。
そんな露地栽培に興味のある方、やってみたい方は、
「露地栽培って何が作れるの?」
「どんな作業があるんだろう?」
「私にもできるかな?」
こんな風にお考えかもしれません。
露地栽培は野菜の品種や時期によって、作れる作物が異なります。
また作業についても、栽培する作物に合わせた工程で行うため、あらかじめ幅広い知識を身につけておく必要があるんです。
このページでは露地栽培で作れる作物や、作業スケジュールを詳しくご紹介します。
どんな人が露地栽培に向いているのかもあわせてお伝えしますので、気になっている方は、ぜひ参考にしてくださいね。
品種や時期に合わせた野菜を作る 露地栽培の生産物例
冒頭でも伝えたように、露地栽培はハウスやトンネルなどの施設を利用せず、野外で野菜を育てること。
そして時期や野菜の品種によって、栽培できる作物は異なります。
たとえばキャベツや大根、白菜やレタスなどは、寒さに強く霜の被害を受けにくいため、秋から春にかけての栽培が一般的です。
逆にトマトやきゅうりは育成適温が高く、寒さで枯死してしまうため、夏場に限って栽培されます。
このように露地栽培では、季節に合わせて、その時々の旬の野菜を生産しているのです。
露地栽培の年間スケジュール 1年中さまざまな野菜を栽培
さまざまな品種や作業工程のある、露地栽培。
ここでは露地栽培でよく生産されるキャベツとトマトを例に、年間の作業スケジュールをご紹介します。
【キャベツ(秋まき)】
10月 種まき:トレイに種をまいて、苗を育てます。
11月 植えつけ:本葉が数枚出たら、畑に植えつけます。
根が定着するまでは、たっぷりと水を与えることがポイントです。
また雑草の多い畑では、植えつけの前後に除草剤を散布します。
12月 追肥・農薬散布:追肥は植えつけから3週間、6週間後の2回に分けて行います。
またアオムシやコナガなどの害虫、黒腐病(くろぐされびょう)や菌核病といった細菌による被害を防ぐため、薬剤を散布するのが一般的です。
1~2月 収穫:球が固く締まってきたら収穫します。
球を手で押し出すようにして株元に包丁を入れ、芯を切るのがポイントです。
収穫が遅れてしまうと、破球する場合もあるので注意しましょう。
【トマト】
4月 土作り:苦土石灰(くどせっかい)をまいて、トマト栽培に適した土壌を作ります。
トマトの苗を植えつける1週間前になったら畝を作り、栽培の準備を整えましょう。
5月 植えつけ・支柱立て:花芽が咲きはじめた苗を、畑に植えつけます。
株の根本が収まる程度の穴を50cm間隔で掘り、根本を崩さないように苗を植えるのがポイントです。
植えつけが終わったら、苗から伸びたツルを絡ませるための支柱を立てます。
支柱は長さを1.5m程度にし、株から5cmほど離して立てましょう。
6月 わき芽欠き・摘果:茎の葉の付け根から伸びる「わき芽」を取り除きます。
わき芽があるとトマトの実に十分な栄養がいきわたらず、病気になったり、大きく育たなかったりするんです。
またひとつの房に5つ以上のトマトが実った場合にも、数を調整する「摘果」を行います。
育成不良や未熟な実を摘んで、残った実に栄養が運ばれるようにするんですね。
7~8月 収穫:トマトが真っ赤になったら収穫時期です。
熟した実は害虫がつきやすいので、トマトの育成状況を毎日チェックして、時期を迎えた実はすぐに収穫するようにしましょう。
青い実が多い場合は追肥して、成長を促します。
露地栽培の1日の流れ 収穫・出荷がある時期は早朝から作業
年間のおおまかなスケジュールがわかったら、次は露地栽培農家の1日の流れを確認していきましょう。
露地栽培農家では、収穫・出荷がある時期とない時期で大きくスケジュールが変わります。
それぞれを、詳しく見ていきましょう。
【収穫・出荷がない時期】
08:00〜09:00 起床・作業準備
09:00〜12:00 農作業
12:00〜13:00 休憩
13:00〜17:00 農作業
17:00〜18:00 夕礼、片づけ、記録
18:00〜24:00 自由時間・就寝
【収穫・出荷がある時期】
04:30~05:30 起床・作業準備
05:30~07:30 収穫
07:30~10:30 選別・箱詰め
10:30~12:00 出荷
12:00~13:00 休憩
13:00~16:00 農作業
16:00~17:00 売上管理
17:00~22:00 自由時間・就寝
収穫・出荷がある時期は、露地栽培農家にとって一番の繁忙期です。
収穫は気温が低く、野菜の鮮度がいい早朝に行うのが一般的。
手元が見えるギリギリの明るさになったら、収穫スタートの合図です。
収穫が終われば、野菜に虫食いや汚れがないかをチェック。
鮮度の高いうちに、野菜を箱詰めして出荷します。
このように収穫・出荷がある時期は、早朝~午前中に収穫・出荷作業、午後からは通常のルーティンで動く農家が多いです。
露地栽培の仕事内容 自然環境から野菜を守る
1日のスケジュールがわかったら、次は露地栽培の仕事内容を詳しく見ていきましょう。
育苗(いくびょう) 苗を害虫・気候変動から守る
発芽したばかりの苗は病害虫や気候変動に弱く、十分に育たない場合も少なくありません。
そのため種をまいてからある程度苗が成長するまでは、温室やビニールハウスなどで「育苗」と呼ばれる育成管理を行います。
マルチング 土を最適な状態に保つ
土の乾燥や地温の上昇、さらに雑草を抑制するため、畝をポリエチレンフィルムで覆う「マルチング」も重要な仕事のひとつです。
畝の幅よりも20~25cmほど長いフィルムを使うと、風ではがれる被害を防げます。
またフィルムの色は、地温の上昇が大きいなら透明に、雑草が多いなら白にするのがポイントです。
定植(ていしょく) 苗から育てる場合に必要
露地栽培は、種からではなく、ある程度育った苗から栽培をスタートさせる場合も少なくありません。
育った苗を畑に植えかえる「定植」も、露地栽培農家ならではの仕事です。
現在は植えつけ機が普及し、以前に比べ作業時間が大幅に短縮されています。
間引き 育成不良を防ぐ
不要な苗を取り除く、「間引き」。
野菜を種から育てた場合、発芽した苗同士の間隔がとても狭いケースがあります。
苗同士の間隔が狭いと、栄養を奪い合ったり、日照不足で育成不良を起こしたり…。
こんな状態を防ぐため、苗が等間隔で揃うように余計な苗を抜く「間引き」を行います。
収穫・出荷 気温の低い午前中がベスト
露地栽培の収穫は、気温の低い早朝から午前中にかけて行うのが一般的です。
また箱詰め・袋詰めなど、野菜の出荷調整は日の当たらない涼しい場所で行います。
なかには「予冷」と呼ばれる、野菜を急冷させて鮮度を保つ処理を行った上で出荷する場合もありますよ。
露地栽培のやりがい・魅力 自然の恵みを食卓に届ける
露地栽培には、どんなやりがいや魅力があるのでしょうか。
露地栽培は、一般的なオフィスワークでは味わえないやりがいがたくさんある仕事です。
農家の人たちは露地栽培にどんな魅力を感じているのか、見ていきましょう。
生産した野菜がスーパーや直売所に並ぶ ”おいしい”が最大のやりがい
露地栽培の最大の魅力は、自分で生産した野菜がスーパーや直売所に並ぶことでしょう。
丹精込めて作った野菜が店頭に並び、家庭でおいしく食べてもらえる。
オフィスワークでは決して味わえない、露地栽培ならではの魅力です。
また食べてくれた方の生の声が聞きやすいのも、露地栽培のやりがいのひとつ。
消費者の声を栽培する野菜にどう反映させるか、こだわりの野菜をどうアピールしていくのか、考えるのも露地栽培の楽しいポイントです。
大自然の中で仕事ができる 四季を感じながら働ける
露地栽培は青空の下、太陽や土の温かみ、四季を感じながら仕事ができます。
夏は暑さを、冬は寒さを実感しながら、毎日大自然の中で働けるのが魅力です。
もちろん、台風や冷夏など、自然の脅威や病害虫の被害を受ける場合もあります。
ただ自然によって育まれた野菜を食卓へ届けるやりがいは、露地栽培生産者の特権です。
独立しやすい環境が整っている 助成金制度あり◎
露地栽培は独立する際、他の農業に比べて初期投資をグッと抑えられます。
稲作や畑作のように最初の収穫までに数年かかったり、大規模な設備が必要だったりすることがないんです。
最近では遊休地を積極的に誘致する自治体や法人も増え、助成金制度を後押ししてくれる場合もあります。
働きながらノウハウを学べて、独立しやすい環境が整っているのも、露地栽培の魅力でしょう。
露地栽培はこんな人に向いている 責任感の強い人は◎
露地栽培は、作業の大半を自然の中で行います。
自然が苦手な人は続かない職種なので、自分が露地栽培農家に向いているのか、これから紹介する3項目でチェックしましょう。
- ①自然が好き
- ②状況に応じた対応ができる
- ③毎日コツコツと仕事ができる
①自然が好き 虫や泥だらけでの作業に抵抗がない
露地栽培は、作業の大半を自然や畑の中で行います。
なので、自然が好きで、屋外での仕事に抵抗がないのが、露地栽培農家として働く上での大前提になるんです。
自然の中、屋外での仕事というと、青空の下で清々しい空気のなか働けると思ってしまいがちですが…。
ときには大雨に振られたり、泥だらけになって作業したり、害虫や害獣を駆除したりと、大変な場面が多いのも事実です。
そんな自然環境の中でも、やりがいや楽しさを見出せる人こそ、露地栽培に向いていると言えますよ。
②状況に応じた対応ができる 露地栽培は計画通りに進まない場合が多い
自然の中で行う露地栽培は、想定外の状況が起こる場合も少なくありません。
たとえば台風で畑の土がドロドロになってしまったり、霜で野菜が弱ってしまったり…。
そんな計画通りに作業が進まない時にこそ、応急処置をほどこしたり、工程を組みかえたりといった臨機応変な行動が求められます。
マニュアル通りでなければ物事を進められない、急な状況の変化に戸惑ってしまい解決策を考えられなくなる、こんな人は露地栽培の現場で活躍できないでしょう。
③毎日コツコツと仕事ができる 地味な作業をこなしてこそおいしい野菜が育つ
毎日コツコツと作業ができる人は、露地栽培にピッタリです。
露地栽培は、日々の積み重ねで成り立っています。
土を耕したり、雑草を抜いたり、地道な作業を何度も繰り返してこそおいしい野菜が育つんです。
なので、物事をすぐに投げ出してしまう人や、最後までやり通す気持ちの弱い人に露地栽培は務まりません。
責任感を持って地道に仕事ができる人こそ、露地栽培農家に適していると言えますよ。
露地栽培のQ&A 女性でも働ける?
Q.露地栽培でどんなキャリアが積めますか
A.以下が一般的なキャリア構成です。
STEP1:栽培スタッフ…さまざまな野菜の栽培技術が身につきます。
STEP2:農場リーダー…作付けの年間スケジュールや販売のノウハウが身につきます。
STEP3:農場責任者・独立…露地栽培に関わるすべての業務が身につきます。
また育てる野菜の品種や農法にこだわった農園をひらくことも可能です。
Q.長期休暇は取れますか
A.取れます。
1年を通して作物を栽培している農家もありますが、ひとつの作物を収穫して、次の作物の栽培に取り掛かるまでの期間を休暇にあてる場合がほとんどです。
長ければ、最大1か月程度の休暇取得も可能ですよ。
Q.女性でも働ける仕事でしょうか
A.できます。
現在の露地栽培は土づくりや苗の植えつけなど、機械で行う場合がほとんどです。
体力面に不安のある女性の方でも安心して働けますよ。
Q.未経験でも働けますか
A.働けます。
露地栽培農家に限らず、農業業界では未経験者を採用し、経験者に育て上げる人材採用計画を立てています。
やる気さえあれば未経験でも問題ないのはもちろん、歓迎される場合もあるほどです。
ただいきなり農家に就職するのが不安な方は、数時間単位で働けて露地栽培のノウハウを学べるアルバイトがオススメですよ。