競走馬とは、競馬に出走する馬の通称。
農業の業種では、牧場での競走馬の繁殖・育成を指します。
競走馬を扱う牧場は、繁殖を行う「生産牧場」と、競走馬としての能力を高める「育成牧場」にわかれ、それぞれ仕事内容が異なるのが特徴。
レースで活躍する競走馬たちは、この2つの牧場で働く人々の尽力によって生産されているのです。
このページでは「生産牧場」と「育成牧場」、それぞれの仕事内容や作業スケジュールを詳しくご紹介します。
どんな人が競走馬に携わる仕事に向いているのかもあわせてお伝えしますので、興味のある方、やってみたい方は、ぜひ参考にしてくださいね。
競走馬の生産物例 サラブレッドとして競走馬の生涯をまっとう
牧場で産まれる馬は、『サラブレッド』と呼ばれます。
サラブレッドとは、速く走る馬の生産を目的に改良された品種。
レースで走るために生産された、特別な馬です。
サラブレッドは生産牧場と育成牧場を経て、騎手を乗せて賞金を稼ぐ競走馬に育ち、全国各地の競馬場で活躍します。
競走馬としての役目を終えたあと、好成績を残した牡馬(ぼば)は種付けのための種牡馬、牝馬(ひんば)は新たなサラブレッドを産む繁殖の役割を与えられるのが一般的です。
また競走馬としての能力が乏しいと判断された馬や、レースで優秀な成績をあげられなかった馬は、乗馬クラブなどの牧場に活躍の場を移すケースもあります。
競走馬の育成スケジュール 生産牧場と育成牧場を経てレースデビュー
競走馬の育成スケジュールは、「生産牧場」と「育成牧場」で異なります。
競走馬に携わる牧場は馬の世話をする仕事なので、基本的には年中無休。
休日は交代制で、スタッフ間で順番に取得する場合が多いですよ。
牧場での働き方は、馬の育成サイクルに大きく関わります。
「生産牧場」「育成牧場」別に、競走馬のおおまかな育成スケジュールを確認してみましょう。
生産牧場
【冬~春】
出産に備え、日々母馬の乳房の状態や漏乳(ろうにゅう)などの分娩兆候を観察します。
難産にならないように、分娩の約1か月前から母馬をウォーキングさせ、運動不足を解消するのも生産牧場での大切な仕事です。
また分娩の直前には、適宜破水はないか、陣痛がはじまっていないかを確認します。
【春~夏】
産まれた子馬の、健康状態を観察します。
もしなにか異常が見られた場合は、獣医師を呼んで対応してもらうなど、子馬の管理を行いますよ。
また子馬のストレス発散や成長を促すために、早いうちから放牧する牧場も多いです。
【夏~秋】
競走馬に育てるため、子馬のしつけを行います。
牧場に出す放牧や馬房に戻す集牧の際にする「引き馬」は、人馬の信頼関係や主従関係を教える有効な手段です。
1歳からの騎乗練習に備え、0歳のうちから人の指示に従ったり、バランスよく歩いたりする練習を行います。
また、この時期に馬の所有者である馬主が決まっていない1歳馬は、市場に出して出資者を探すのが一般的。
なかでもとくに発育のいい馬は、セレクションセールと呼ばれる選抜市場において高値での取引きを目指します。
育成牧場
【夏~秋】
生産牧場から引き継いだ1歳馬たちを、広い放牧地で集団管理します。
牧草をよく食べさせ、牧場でよく遊ばせて、今後のトレーニングに向けた体力を養わせますよ。
また病気やケガ、栄養不足などがないか、常に馬体をチェックして放牧時間やエサの量を調整します。
【秋~冬】
騎手が乗るための鞍をつけてトレーニングを行います。
実際に人が騎乗する前に、騎手が操縦するために馬の口に含ませるハミを使った「ドライビング」をして、手綱によるハンドル操作を教えますよ。
【冬~春】
常に馬の状態を観察し、馬主や調教師に対して成長度合や調教の進捗、馬の性格などの情報を随時報告します。
【春~夏】
スピードを上げる調教や、スタートゲートからタイミングよく出る練習を行い、競走馬としてのデビューに向けた仕上げを行います。
調教が順調な馬は、6月からはじまる新馬戦に向けてトレーニングセンターや競馬場に移動。
馬主が決まっていない馬は、再びセールでのセリにかけられます。
競走馬に携わる牧場の1日の流れ 馬に合わせて朝は6時スタート
育成スケジュールがわかったら、次は競走馬に携わる牧場の1日の流れを確認していきましょう。
競走馬の牧場では、管理する馬に合わせたスケジュールが組まれます。
また1日の流れは同じですが、飼育スケジュールと同様に「生産牧場」と「育成牧場」で作業内容が異なりますよ。
生産牧場
06:00~08:00 集牧・放牧
08:00~10:00 給餌・馬体管理
10:00~12:00 馬房清掃・種付け
12:00~14:00 休憩
14:00~17:00 馴致(じゅんち)・放牧
※お出産や病気・ケガがあった場合は、時間を問わず対応
育成牧場
06:00~08:00 給餌・放牧
08:00~10:00 馬房清掃・ウォーキング
10:00~12:00 調教
12:00~14:00 休憩
14:00~16:00 放牧・馬体管理
16:00~17:00 給餌
※病気・ケガがあった場合は、時間を問わず対応
競走馬に携わる牧場の仕事内容 いかに競走馬としての能力を高められるかがポイント
1日のスケジュールがわかったら、次は「生産牧場」「育成牧場」それぞれの主な仕事内容を見ていきましょう。
生産牧場の仕事 競走馬の土台を作る
生産牧場の主な仕事は、母馬となる牝馬を飼養管理し、種付け・出産をさせること。
また生まれた子馬が離乳するまで育て、育成牧場へと引き渡す役割を担います。
種付け 安全に行えるように細心の注意が必要
種付けは競走馬の能力を最大限発揮させられるよう、春から初夏にかけて行われます。
これは、他の同年代の馬より少しでも早く出産させるため。
早生まれの馬ほど成長が見込めるため、デビュー戦で能力的なアドバンテージが期待できるんですね。
種付けははじめに繁殖牝馬を発情させてから、種牡馬と交配させます。
交配にあたっては、牡馬と牝馬それぞれに1名ずつ、問題が発生した場合に動ける人が1名の、計3名の付き添い人を用意するのが一般的。
交配時間は約1分から1分30秒ほどと短いですが、正しく安全に種付けできるよう、係員は細心の注意を払います。
馴致(じゅんち) セリで評価してもらうのが目的
セリで高く評価してもらうための馴致も、生産牧場の大切な仕事のひとつ。
そもそも馴致とは、物事や動作に慣れさせる・馴染ませることを指します。
生産牧場での馴致は、正しい姿勢で立ったり真っすぐ歩いたりできるようになるのが目的です。
常に馬とコミュニケーションを取りながら、セリのための動作を教え、また競走馬として必要な筋肉をつけます。
育成牧場の仕事 調教によって速く走る馬を目指す
育成牧場の仕事は、生産牧場から引き継いだ馬を訓練して成長させること。
段階を追って調教し、サラブレッドが持つ競走馬としての能力を引き出す役割を担います。
調教 レースで勝つためのトレーニング
競走馬が速く走るために行うトレーニングを、調教と呼びます。
サラブレッドとはいえ、はじめから人を乗せられる馬はいません。
騎乗のトレーニングを経て、暴れず騎手に従うようになるのです。
また馬に走る気持ちを出させたり、スピードやスタミナ向上のトレーニングを行ったりするのも調教になります。
調教師は馬に寄り添い性格を見極めながら、その馬に合った調教を行い、騎手を乗せても速く走れる競走馬に育てていくんですね。
生産牧場・育成牧場に共通する仕事 馬の管理が基本
放牧・集牧 馬の成長に必須
放牧は、牧場で管理する牧草地へ馬を放ち、自由に運動させたり遊ばせたりすること。
体を動かす環境と開放感を与え、馬の成長を促したりリラックスさせたりします。
反対に、放牧した馬を馬房へ戻す作業は集牧といいますよ。
馬房・放牧地管理 安全にのびのび過ごせる環境づくり
馬房の清掃や管理も、競走馬に携わる人には不可欠な仕事。
馬房の清掃は、馬を放牧に出している間に行います。
排泄物や汗で汚れた寝ワラを取り替え、清潔な馬房を維持しますよ。
また馬を放牧するための放牧地の管理も、重要な仕事のひとつです。
馬が安全にのびのびと過ごせる環境づくりや、冬季の飼料として用いる乾牧草の収穫を行います。
給餌 健康状態をチェック
給餌は、馬たちが起き出す早朝6時くらいに行います。
サラブレッドが食べるエサは、麦や豆、油粕などをあわせた栄養価の高い飼い葉です。
給餌は育成のほか、馬の健康状態を把握する機会にも使われます。
きちんと食べているか、ケガや体調不良がないかなど、給餌の時間に判断しますよ。
競走馬に携わる牧場のやりがい・魅力 広大な自然が職場
競走馬に携わる牧場は、どんなやりがいや魅力があるのでしょうか。
競走馬は動物が相手となり、一般的な農業とは異なる特徴を持つ業種です。
牧場の人たちは競走馬の生産にどんな魅力を感じているのか、見ていきましょう。
馬の成長を間近で感じられる レースで勝った時の喜びはひとしお
馬の成長を一番近くで感じられるのは、競走馬に携わる牧場の人たちにとって最大の魅力と言えるでしょう。
苦楽をともにした馬が、競走馬としての素質を開花させたり、レースで活躍したり…。
自分の手から離れたあとも、生涯いちファンとして成長を見届けられます。
とくに、手がけた馬が人気の競走馬として有名になった時は、計り知れない喜びを感じられますよ。
広大な自然の中で仕事ができる 牧場は魅力がたっぷり
競走馬が日々生活するのは、広大な牧場。
そのため、競走馬の育成に携わる人は、豊かな自然の中が職場になります。
都会の喧騒を離れ、太陽や風、季節の移り変わりを肌で感じながらのびのび働けるのは、競走馬を育てる牧場ならではの魅力です。
高収入が得られる 調教師なら年収1000万円も
一般的な農家に比べ求人の少ない競走馬の牧場ですが、その分農業業界でもトップクラスの高収入が期待できます。
競馬人口の多い日本では競走馬に携わる牧場の需要が高く、時期や景気にも左右されないため、ひと牧場あたりの利益が大きいんです。
実際に、競走馬の世話をする厩舎(きゅうしゃ)従業員の年収は500~800万円程度。
調教師になると、700~1000万円程度の収入が見込めるんです。
競走馬の牧場は、高収入が得られる仕事でもあるんですよ。
競走馬に携わる牧場はこんな人に向いている 馬を大切にできれば◎
競走馬に携わる牧場では、動物である馬が仕事のパートナーです。
馬を一番に考えてお世話できてこその仕事なので、自分が競走馬を育てる仕事に向いているのか、これから紹介する3項目でチェックしましょう。
- ①動物を思いやれる
- ②イレギュラーでも慌てない
- ③些細な変化に気づける
①動物を思いやれる 馬は大切なパートナー
競走馬の育成は、動物を思いやる気持ちがあってこそ務まります。
「おいしい飼い葉をおなか一杯食べさせてあげたい」
「気持ちいいワラの上で寝かせてあげたい」
「苦しそうだから何とかラクにしてあげたい」
こんな風に、親身になって馬に寄り添う心が必要です。
馬を家畜としてではなく、パートナーとして接してあげられる人は牧場で活躍できますよ。
②イレギュラーでも慌てない 落ち着いて対応できる
生きた馬を扱う競走馬の牧場では、イレギュラーな状況が起こる場合も少なくありません。
たとえば、急に馬が体調を崩したり、真夜中にお産がはじまったり…。
こんな時でもパニックにならず、落ち着いて獣医に連絡したり、素早くお産の準備を整えたりといった行動が必要になります。
決まっている作業しかできない、急な出来事に慌てて思考が止まってしまう、こんな人に牧場勤務は務まらないでしょう。
③些細な変化に気づける 馬の不調をすぐに見抜く
周りの些細な変化に気づける人も、競走馬の牧場に最適です。
ちょっとしたケガや病気が原因で、レース出走の道が閉ざされてしまうケースも少なくない、競走馬。
そんな事態を防ぐためにも、牧場で働くなら、馬の状態に気を配り不調のサインにすぐ気づける観察眼が必要です。
日々の生活のなかの些細な変化や違いにすぐ気が付く人は、その能力を牧場でも活かせます。
競走馬に携わる牧場のQ&A 未経験者は働けない?
Q.競走馬の牧場で働くにはどうすればいいですか
A.以下、2つのルートがあります。
ルート1:募集を出している牧場に直接応募する
基本的には競走馬育成に関しての経験や知識、技術のある方が優先されますが、自社研修が充実している牧場では、未経験の方を積極採用するところもあります。
ルート2:研修を受け競走馬育成の知識をつけてから牧場に就職する
日本軽種馬協会、もしくは軽種馬育成調教センターが行う牧場就業に必要な知識と技術を学ぶ研修を受け、その上で牧場の求人に応募して就職する方法もあります。
研修は約1年間全寮制で行われ、研修費も50~60万円ほど必要ですが、修了者の牧場就職率は100%と受講者全員が牧場で働けるのがメリットです。
また修了者のもとには毎年多くの牧場から求人が寄せられるので、その中から自分が希望する牧場を選んで就職できます。
Q.長期休暇は取れますか
A.取れます。
牧場では365日馬の世話をしますが、交代制にしたり農業派遣者を雇ったりして長期の休暇期間を設ける牧場も少なくありません。
Q.女性でも働ける仕事でしょうか
A.可能です。
牧場の仕事には、放牧中に寝転んで泥だらけになった馬をきれいにする手入れ、お産の準備など、体力面に不安のある女性でもできる作業がたくさんあります。
また以前は男性の多い業種でしたが、現在は全国各地の牧場で女性の活躍が目立ちはじめてていますよ。
Q.未経験でも働けますか
A.働けます。
先ほどもお伝えしたように、基本的には経験者が優遇される業界ですが、研修制度が充実している牧場では未経験者を積極的に受け入れているところもありますよ。
定期的に求人情報を確認して、条件に合った牧場を探すようにしましょう。
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