安全で体によく、環境にも優しいイメージのある「有機栽培(オーガニック)」。
お買い物の際に、有機栽培の野菜やお米、果物を選ぶ方も少なくないでしょう。

ですが実際のところ、有機栽培はそもそもどんな農法なのか、知らない方も多いはず。

そこで今回は、有機栽培の概要や無農薬との違い、メリット・デメリットをご紹介します。
有機栽培や無農薬の正しい意味を理解して、日々の食材選びに役立ててくださいね。

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有機栽培とは?簡単にいうと化学肥料や農薬に頼らない農法

有機農業で苗を植える農家

有機栽培とは、化学肥料や農薬、遺伝子組み換えに頼らず農作物を栽培する方法のこと。
化学技術を使わないぶん、一般的な野菜より「安全で健康によい」イメージがありますよね。
ちなみに有機栽培は英語で「organic(有機的)farming(農業)」と表現されます。
巷でよく目にする「オーガニック」も、有機栽培と同じ意味だと捉えて問題ありません。

有機栽培とオーガニックの認定基準は、農林水産省が設定しています。
ここからは、有機栽培の具体的な定義や認証方法を見ていきましょう。

農林水産省による有機栽培の定義

有機農業とは

1.化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
2.遺伝子組換え技術を利用しない
3.農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
農業生産の方法を用いて行われる農業です。

有機農産物とは

1.周辺から使用禁止資材が飛来し又は流入しないように必要な措置を講じている
2.は種又は植付け前2年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しない
3.組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わない
など、「有機農産物の日本農林規格」の基準に従って生産された農産物のことです。

こちらは、農林水産省が発表している「有機農業」と「有機農産物」の定義です。
先ほどお伝えしたとおり、化学肥料や農薬、遺伝子組み換え技術を用いないのが有機農業。
農林水産省の定義をクリアした農法と農産物だけが「有機栽培」「オーガニック」と呼ばれます。

有機栽培は、化学的に合成された肥料や農薬を2年以上使用していない土壌で行うのがルール。
遺伝子組み換えや放射線照射も避け、あくまで自然を活かした環境で食物を育てていきます
肥料に使うのは、家畜のふん尿やわら、落ち葉などの有機物を分解・腐熟させた堆肥が中心。
農地の生産性を高めながら、自然環境や生態系への負荷を低減できるのが特徴です。
SDGsの「持続可能な食料システムの構築」に向け、国も有機栽培を推進しているんですよ。

一方で、「有機栽培(オーガニック)=無農薬」ではないので注意が必要。
化学合成された肥料は禁止されていますが、天然原料の肥料は使用を認められています。
有機栽培は農薬を使っていないから安心だと勘違いされがちなので、覚えておきましょう。

有機農産物の証は「有機JAS認証」

有機JAS認証マーク


作物を有機農産物として出荷・販売するには、「有機JAS認証」を受けなければなりません。
有機JAS認証とは、有機JASに基づく生産を行う事業者に「有機JASマーク」の使用を認める制度

有機JASマークは、化学物質や技術に頼らず、自然の力で生産された食品につけられます。
有機JASマークの表示があれば、消費者が一目で有機農産物だとわかるのが最大のメリット。
またマークだけでなく、「有機〇〇」「オーガニック〇〇」といった名称の使用も認められます。

ただ有機JAS認証を受けるには、大きく2つの原則をクリアしなければなりません。

  • ほ場や栽培場、加工場などが有機JASの生産基準を満たしていること
  • 有機JASに則した生産管理や生産管理記録の作成が適切に行えていること

この原則をクリアしているか確認するため、第三者機関が書類審査および実地検査を行います。
ほ場や種子、肥料、防除、管理などを確認して、問題なければ有機JAS認証を受けられるんです。
認証後も、1年に1回調査が入り、有機JAS規格に基づいた生産を行っているか確認されます。

有機JAS認証の保持には手間がかかりますが、消費者の信頼を得るには欠かせない要素ですよ。

世界的な安全基準は「グローバルGAP認証」

有機JAS認証は、日本国内の農産物の安全性を示す基準です。
対して、世界的に普及している農産物の安全基準は「グローバルGAP認証」と呼ばれます。

グローバルGAPとは、「Good(適性な)Agricultural(農業の)Practices(実践)」のこと。
持続的な生産活動を実践する事業者に与えられるブランドで、120か国以上に導入されています。
事実上の国際基準となっており、国外への輸出や海外展開で有利に働く認証といえるでしょう。

グローバルGAP認証を取得するには、有機JAS認証と同様、第三者機関の調査が必要です。
食品安全だけでなく、トレーサビリティや作業従事者の労働環境、環境保全など…。
有機JAS認証より調査項目が多く、カバーする範囲も広いため、取得の難易度は上がります。

ですがグローバルGAP認証のメリットは多岐にわたるので、取得して損はありません。

たとえば認証基準をクリアすることで、農産物の安全性と品質を引き上げられます。
また労働環境の改善が、コストの削減や作業の効率化につながり、農業経営も安定。
取引先や消費者からの信頼を得やすく、海外も視野にいれた販路の拡大も期待できます。

2021年現在、世界のグローバルGAP認証経営体は約208,400ほど。(※)
日本ではまだ790経営体しか認証を受けていませんが、今後どんどん増えていくでしょう。

(※)
GLOBALG.A.P.認証経営体数の推移 | GAP普及推進機構

有機栽培と無農薬の違いは?他の栽培方法も紹介

有機栽培以外の農法を行う農家さん

有機栽培と並んでよく目にする「無農薬栽培」
有機栽培と無農薬栽培の違いは、大きく2つあります。

  • 農薬を使用するか・しないか
  • 認証する第三者機関が存在するか・しないか

ここからは、有機栽培以外の代表的な栽培方法を3つご紹介します。

  • 無農薬栽培(特別栽培)
  • 自然栽培
  • 慣行栽培

無農薬栽培とは

無農薬栽培とは、農産物の生産に農薬を一切使わない農法のこと。
有機栽培では、自然原料の農薬や肥料の使用が認められています。
そのため有機栽培と比べて「無農薬栽培の方が安全で健康によい」と勘違いされがち。
ですが無農薬栽培には、有機JAS認証のような第三者機関からの認証制度がありません。

生産中に農薬を使っていなくても、土壌に残っていたり、近隣から飛散したり…。
農産物に農薬が混じっていないとはいえないため、安易に安全だと思うのは危険です。

実際に農林水産省は、消費者の誤解を招く可能性が大きいことから、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」などの表記を禁止。

特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を設定し、「無農薬」と「減農薬」は「特別栽培農産物」という名称に統一されました。

特別栽培農産物とは

その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物です。

こちらは、農林水産省が設定した「特別栽培農産物」の定義です。
農薬の使用回数や化学肥料の成分量を、地域規定の半分以下に減らすことが条件。

  • 特別栽培農産品としての名称
  • 農薬・化学肥料の不使用期間や節減量
  • 責任者の氏名・住所・連絡先

また定義を満たしたうえで、上記3点を商品に表示しなければなりません。

特別栽培農産物は、農薬や化学肥料をおさえるぶん、食材本来の美味しさが引き出されます
有機栽培と同様、一定の安全性も担保されているため、消費者にとっては安心感もあるでしょう。

自然栽培とは

自然栽培とは

「自然栽培」とは自然の力をいかんなく引きだす永続的かつ体系的な農業方式の呼称です。
肥料・農薬には頼らず植物と土の本来持つ力を引き出す農業です。

こちらは、自然栽培全国普及会による「自然栽培」の定義です。
自然栽培とは、肥料・農薬に頼らず、自然本来の力だけで作物を栽培する農法
自然界に存在する虫や微生物、雑草などを最大限活かして、農産物を育てます。

自然栽培には明確なルールがなく、実践者によって手法が変わるのが特徴。

  • 農薬を使用しない
  • 肥料を使用しない
  • 田畑を耕さない
  • 除草をしない
  • 水やりをしない
  • 自家採種する

こういった手法を組み合わせて、作物のもつ栄養や味を引き出すんです。
自然栽培で育てた野菜は、健康によいのはもちろん、環境に負担をかけません
自然と共存しながら持続可能な農業を実現できると、注目されている農法でもあります。

一方で自然栽培の農産物は、手間がかかる割に生産量は少なく、値段が高くなりがち。
しかも第三者機関の認証はないので、販売元についてはしっかり調査した方が安心です。

慣行栽培とは

慣行栽培とは、農産物の生産過程において農薬や化学肥料を使用する農法
日本でもっとも導入されている栽培方法で、6割以上の農家が実践しています。(※)

慣行栽培は、害虫被害や育成不良を避け、均質な農産物を安定的に収穫できるのが魅力。
ハウスや温室などで慣行栽培を行えば、天候の影響も受けにくく、より生産量が安定します。
農家にとっては大規模かつ効率的に作物を育てられ、収益も上げやすい農法といえるでしょう。

ちなみに農薬や化学肥料を使う慣行栽培は、有機栽培や特別栽培と比べて危険だと思われがち。
ですが実際は、農薬取締法で定められた農薬と肥料が使われ、使用量・回数が決められています。
人体に悪影響がないよう厳格な規定があるため、慣行栽培の農産物も十分安全性は高いんです。

農家の手間を減らせる慣行栽培は、安定した農作物を供給するために欠かせない農法。
「農薬と化学肥料はよくない」という思い込みは捨て、適宜購入していくのも大切です。

(※)
分野別分類/農林水産行政等に対する意識・意向調査┃農林水産省
環境保全に配慮した農業生産に資する技術の導入実態に関する意識・意向調査(平成30年11月20日公表)

有機栽培のメリット

有機野菜の宅配サービスを利用する主婦

さて続いては、有機栽培のメリットをご紹介します。

  • 農作物本来の美味しさと栄養素を引き出せる
  • 土壌や水質、生物などの環境保護につながる
  • 安全性が可視化され、消費者の信頼を得られる

有機栽培のメリットは大きくわけてこちらの3つ。
それぞれの項目について、詳しく解説していきますね。

農作物本来の美味しさと栄養素を引き出せる

化学原料の農薬と肥料を使わない有機栽培は、農作物の美味しさと栄養素を引き出せるのがメリット。

化学農薬や肥料には、人工的に育成を早めたり、虫食いを防いだりする効果があります。
栽培の手間がかからなくなる一方で、農産物や土壌のもつエネルギーを減らしている状態
そのため、農産物の味や風味が損なわれたり、栄養が十分に蓄えられなかったりするんです。

対して有機栽培は、農作物本来のエネルギーを引き出し、じっくりと育成します。
また害虫が作物に付着することで、酵素を生み出したり栄養を吸収したりできるのも◎。
有機栽培で育成された農産物は、味や旨味が濃く、栄養価も高いケースが多いんですよ。

土壌や水質、生物などの環境保護につながる

農薬や化学肥料を使用しないことで、周辺環境を保護できるのも有機栽培のメリットです。

農薬や化学肥料の使用は、土壌の有機質を減少させ、栄養素がどんどん失われてしまいます。
土壌がやせ細ると、農産物だけでなく、周辺に生息する虫や動物にも悪影響を与えかねません。
また、化学物質が水質を汚染したり、農薬や肥料の散布により温室ガスが発生したり…。
環境破壊や地球温暖化につながってしまう可能性も大きく、問題視されているんですよ。

有機栽培は、他の農法と比べて土壌や生物系への影響、温室ガスの排出量などが少ないです。
環境に配慮できるとして、「SDGs(持続可能な開発目標)」の観点からも注目されています。

安全性が可視化され、消費者の信頼を得られる

有機栽培は、有機JASマークによって「有機農業を実施していて安全」だとアピールできます。
有機JASマークは第三者機関の認定がないと表示できないため、信頼性が高いのも重要。
安全性がわかりやすく安心して食材を購入できるのは、消費者にとって嬉しいメリットです。

また生産者側からすると、消費者の信頼を獲得しやすく、競合と差別化を図れるのが魅力。
消費者の需要がしっかりあるため、通常より価格を高く設定しても売上につながりやすいです。

有機栽培のデメリット

手作業で田植えをする有機米栽培農家

  • 有機肥料の使用に危険性がある
  • 栽培に手間とコストがかかる
  • 有機JAS認証の規定が厳しい

有機栽培には、メリットだけでなくデメリットも存在します。
人体や環境への影響もあるため、安易に有機栽培を選ぶのは危険。
メリットとデメリット、両方を理解したうえで食材を購入しましょう。

有機肥料の使用に危険性がある

有機栽培では、「動物性肥料」と「植物性肥料」、2つの有機肥料の使用が認められています。
植物性肥料は、わらや雑草、米ぬかなどを発酵させて作る肥料。
対して動物性肥料は、家畜のふん尿や残飯などを発酵させて作る肥料です。

有機栽培で問題視されているのは、動物性肥料の適切な発酵と使用量について。
家畜のふん尿や残飯には、食中毒を引き起こすサルモネラやO157などの菌が稀に含まれます。
数か月かけて発酵させれば殺菌されますが、発酵が不十分だと肥料に病原菌が残る危険性も…。

また種類に関係なく、肥料を使用すると、農産物に「硝酸性窒素」が蓄積されます。
硝酸性窒素は、摂取し過ぎると体内で発がん性物質を発生させるといわれている成分。
「有機栽培だから安全だ」と安易に信じたり、手を出したりするのは非常に危険なんです。

とはいえ、動物性肥料の管理に気を付けて、誠実に有機栽培に取り組む農家も沢山います。
有機栽培の危険性を理解したうえで、生産者や生産過程まで目を向けて食材を選ぶのが重要です。

栽培に手間とコストがかかる

有機栽培は、他の農法と比べて手間とコストが大きいのがデメリット。
化学肥料や農薬を使用しないぶん、手作業で害虫を駆除したり、雑草を抜いたり…。
栽培に手間がかかるので、ある程度の人手や時間を確保できないと有機栽培は難しいです。

また農業では、自然災害や病気によって農産物が被害を受けるケースもあります。
ただでさえリスクが高いのに、有機栽培は病害虫や育成不良を予防するのが難しい農法。
労力に見合わないと感じて、わざわざ有機栽培を選ぼうとしない農家も少なくありません。

有機JAS認証の規定が厳しい

有機栽培の証である「有機JAS認定」を取得するには、細かい規定をクリアしなければなりません
農作物の世話だけでなく、ほ場整備や栽培記録、資材管理など、農家にかかる負担が増大。
しかも1年に1回調査が入るため、継続的な実施と見直しが求められるのも大変といえます。

また審査にかかる費用や、有機JASマークがついたパッケージの作成費はすべて農家負担
認証を受ける手間やコストが大きく、有機栽培をしているのに申請しない農家も存在します。

日本では、持続可能な農業を目指して有機栽培を推進していますが、まだまだ割合は少ないです。
有機栽培の取組面積を拡大していくには、農家の負担を軽減する仕組みが必要なのかもしれません。

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意味を正しく理解して有機栽培を応援!次世代によい環境を残そう

有機野菜を育てる畑で笑っている子ども

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
有機栽培の概要や他の農法との違い、メリット・デメリットをご紹介しました。

有機栽培は、化学肥料や農薬、遺伝子組み換えなどに頼らず、農産物を育てる農法。
一般的な他の農法と比べると、安全な肥料や農薬が使われていて、使用量も少ないです。
周辺の環境や生態系への影響も少なく、持続的な農業を実現するためには欠かせない存在
生産者にとっても消費者にとってもメリットの多い有機栽培は、今後も拡大していくでしょう。

ただ有機栽培は、特定の肥料や農薬の使用は認められているので、一概に無農薬とはいえません。
デメリットで紹介したように、肥料の用法・用量によって危険性もはらんでいるので注意が必要。

大切なのは、有機栽培の正しい意味を理解したうえで、生産者や農法にまで目を向けること。
どんな農家さんが、どんな農薬や肥料をどれくらい使って、どんな方法で栽培しているのか…。
食材を育てている農家さんについて調べることで、本当に安全で地球に優しい食材を選べますよ。

また、日本は海外と比べて、地球や環境に対する意識が低いと問題視されています。
日本人が有機栽培を選ぶのは、「健康によい」「安全性が高い」といった理由から。
一方で海外では、「次世代によい環境を残すため」といった理由で有機栽培が広がっています。
未来の子どもたちのために有機栽培を根付かせるには、私たちの意識を変えることも重要です。

もし機会があれば、農家さんの営む農場を尋ねてみるのもよいかもしれません。
農家さんは、私たちの食卓へ安全で美味しい食材を届けるため、日々農産物と向き合っています。
とくに有機栽培を行っている農家さんは、手作業で害虫や草を防いだり、作物の管理をしたり…。
大変な労力をかけて、私たちが口にする野菜やお米、果物などを栽培してくださっているんです。

農家さんの働きぶりを間近に見ることで、食や農業、環境への意識が高まる可能性大
次世代の子どもたちによい環境を残すためにも、一歩踏み出してみることをオススメします。

ちなみに、当サイトジモベジワークスで農家さんと触れ合う機会をもつことも可能です。
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